会社側の安全配慮義務と働く側の意識

長時間労働が過労死を招くことは、今や多くの人が認識しています。

これからの時代、労働人口がどんどん減少していくなかで、今こそ自分の働き方や休み方を今後のキャリアとともに真剣に見つめなおす必要があるように思います。

 

目次

会社側の安全配慮義務と働く側の意識

2016年11月25日、店舗設備のレンタル会社にアルバイトとして勤務し、長時間労働の末に亡くなった38の男性の過労死が大阪地方裁判所に認定されました。

アルバイトとして勤務していた男性=当時(38)=が、不整脈により突然死したのは過労が原因だとして、遺族2人が同社に計約8200万円の損害賠償を求めた訴訟の判決は、長時間労働による過労死と認定し、同社に約4800万円の支払いを命じるというものでした。

この裁判の争点は2つ。

1)業務と死亡との因果関係

2)ノルマが課されていないアルバイト従業員に対し、会社側が正社員と同様の安全配慮義務を負うかどうか

業務と死亡との因果関係については、男性の死亡前1カ月の時間外労働が80時間を超えていたうえ、死亡1週間前には午前3時まで働き、約4時間の空き時間を挟んで翌日の午前0時ごろまで働くことがあったと指摘しました。

そして、「死亡直前の数日間はいわば昼夜を問わず働いている状態で、身体に重大な負荷が生じていた」として業務と不整脈との因果関係を認めました。

しかし、会社側は出勤日を自分で選択できるシステムだったことを主張したため、明確には強制とは言えない出勤に安全配慮義務が及ぶのかに注目が集まりました。

大阪地裁は、同社で15年以上勤務しており、会社側には正社員と同様に心身に注意を払う義務があると判決に書いています。

一方で男性にノルマはなく、出勤日も自分で選択できたことから、「自ら休日を取り、疲労回復に努めるべきだった」とも言及し損害額の30%を過失相殺しました。

 

「安全配慮義務」とは?

労働契約法第5条に「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」とあります。

平成20年3月に施行された使用者の労働者に対する安全配慮義務(健康配慮義務)を明文化したものです。

このような法律の話をすると、「罰則はないんですよね?」と聞かれることが良くあります。

確かに、労働契約法には罰則がありません。

ただし、安全配慮義務を怠った場合、民法第709条(不法行為責任)、民法第715条(使用者責任)、民法第415条(債務不履行)等を根拠に、使用者に多額の損害賠償を命じる判例が多数存在します。

罰則がないから守らなくてもよい、というものではありません。

「安全配慮義務」違反を問われるケースは、年々増加しているのです。

 

働く側はどう自衛していくのか

先の判例では、ノルマはなく、出勤日も自分で選択できるという働き方から、「自ら休日を取り、疲労回復に努めるべきだった」とも言及し損害額の30%が過失相殺されています。

本来、労働とは「会社からの指揮命令」により行うものです。

立場としては、当然のように会社が上、労働者が下という構図があります。よって、労働基準法をはじめとした様々な法律で労働者は保護されています。

しかし、労働者の中でもさらに立場の弱い、非正規社員(契約社員、パート・アルバイト社員、嘱託社員、派遣社員等)というポジションで自己主張をしていくことはなかなか厳しい現実があります。

ただ、体を壊しては元も子もない、「心身の健康を守る最後の砦は自分自身だ」ということを強く意識し、働く側も自らの働き方を見直す必要に迫られています。

 

働き方改革の議論の順番から何がみえる?

2016年9月27日に安倍晋三首相を議長に「働き方改革実現会議」の初会合が開かれました。

この会議で議論されるテーマは以下の内容になります。

1 同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善
2 賃金引き上げと労働生産性の向上
3 時間外労働の上限規制の在り方など長時間労働の是正
4 雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、格差を固定化させない教育の問題
5 テレワーク、副業・兼業といった柔軟な働き方
6 働き方に中立的な社会保障制度・税制など女性・若者が活躍しやすい環境整備
7 高齢者の就業促進
8 病気の治療、そして子育て・介護と仕事の両立
9 外国人材の受入れの問題

一番初めに「非正規雇用の処遇改善」が挙げられています。

先の例のように、自ら出勤日を決めることができると言われても、実際の立場の弱さは、自ら声をあげることに抑制力を発動させてしまいます。

今や労働者の4割が非正規社員と言われていますが、その処遇の改善をいかに行っていくか。

労働者自身も、会社に課せられた「安全配慮義務」に期待せず、「自分の心身の健康は自分で守る」という強い意志をもって今後のキャリアを考える時期がきているように思います。